アルコールハラスメント(和製英語: alcohol harrassment、アルハラ)とは、アルコール飲料に絡む犯罪行為、嫌がらせ全般を指す言葉で、アルコール類の摂取の強要など対人関係の問題や、酩酊状態に陥った者が行う各種迷惑行為などの社会的なトラブル(迷惑行為)を含む。
飲酒の強要等の社会問題は広くパワーハラスメントの一種として捉えられることもあるが、アルコールハラスメントは日本でアルコール飲料に関する嫌がらせを意味する概念としして用いられている和製英語である。日本では、アルコールハラスメントが原因での死亡者がでたことをきっかけとして1980年代以降に急速に問題視されはじめた。
この問題に関する日本の代表的な組織である、特定非営利活動法人アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)は、アルハラ行為を次の5つに規定している。
・飲酒の強要
上下関係、伝統、習慣、集団でのはやし立てを背景に、あるいは罰ゲームなどといった形で心理的圧力をかけて飲酒を強要することである。
・一気飲ませ
・意図的な酔いつぶし
・飲めない人への配慮を欠くこと
本人の体質や本人の意向を無視して飲酒をすすめる行為や宴会などの場に酒類以外の飲み物を用意しないことなどである。
・酔ったうえでの迷惑行為
なお、ハラスメント(嫌がらせ)の一種と捉えられているものの、実質的には飲酒を強要する行為は単なる嫌がらせを超える人権侵害行為であり、死者が出ている事例もあり傷害行為にあたるとの指摘もある。
古くから酒類はコミュニケーションの道具として用いられてきた。軽度の飲酒は気分を楽しくし人間関係を円滑にする潤滑剤の役目を担ってきたと言ってもよい。
しかし、度を過ぎて飲酒すると眩暈・吐き気といった不快な症状を招き、また判断力を失った酔漢の常軌を逸した行動は、しばしば周囲の人間に不快感を催させ、しかも当人が常識の埒外にあるため、余計に事態を悪化させる場合がある。また、急激・大量の飲酒(いわゆるイッキ飲み)は、急性アルコール中毒の原因となり、それにより死を招くことも珍しくない。
アルコールを受け付けない体質は多くが遺伝性の要因によるものである。特に日本人は約35%がアルコールの解毒能力が弱く急性アルコール中毒に陥りやすいALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)ヘテロ欠損型の体質であり遺伝的にお酒に弱いと言われている。
一方、社会的要因も挙げられている。例えば、飲酒の強要は上下関係、伝統、社会的な習慣などから心理的圧力をもたらすことがある。なお、飲酒の強要などの問題は、上下関係や長幼の序を重んじる東アジアに特有のものとの分析がある一方、アメリカでの大学生による飲酒事故などからそのような背景のみではないとの分析もある。
特に社会的な対人関係において、酒の席や歓待行為に絡むトラブルは根強い。歓待のつもりで酒宴を行い、酒を飲めない相手が余計に気分を害することもしばしばで、特に日本の会社社会では役職の上下関係から、上司から勧められた杯を返すことは礼を失する行為であると長らく思われてきたため、酒に弱い体質であったり、酒癖が悪いために自重している者が、無理に飲酒して健康を害したり、後々まで悔恨する事故を起こす例は多かった。
特に日本の古い会社社会では、女性社員や平社員が酌をして回る、あるいは上司が部下に労をねぎらう意図で酒を飲むことを勧めるという風習も見られ、これらでは勧める側が飲酒を要求した場合に、勧められた側が断ることを良しとしない・恥をかかされたと感じるなどの風潮もみられ、このような件でのアルコールハラスメントは、文化的土壌やパワーハラスメントとしての側面を含んで根絶しにくいとの指摘もある。
日本においては「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」(別名:酩酊防止法、よっぱらい防止法)が存在し、酩酊者の行為規制や保護について規定する一方、同法第2条(節度ある飲酒)において、「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない」としている。
この法律は1961年制定の法律で、第2条の条文の趣旨はアルコールハラスメント防止にもつながる内容となっている。一方で第2条のタイトルが「節度ある飲酒」となっており、ある程度の飲酒が前提になっているような表現になっている点に関しては昔ながらの飲酒文化の影響が垣間見えるとの指摘もある。